対ドルで円が122円を付け、韓国ウォンや中国元よりも弱い通貨になっていると話題になっています。
以前は有事の円買いと言われ何かリスクオフの場面があれば円が買われ安全資産と言われていました。
それが近年ではそうでもなくロシアのウクライナ侵攻では逆に円売りが起きています。
今回は何故円が弱くなってしまったのかを解説します。
円が弱くなった理由として大きく2つの理由があります。
今日はそのうちの1つについて解説します。
その理由は以下です
1、日銀が大量に円資産を抱えている
以下で解説します
皆さんが保有している現金のお札には「日本銀行券」と書かれています。
もし良ければ見てみて下さい。
お金は日本の中央銀行である日本銀行(日銀)が発行している券(不換紙幣)なのです。
不換紙幣とは日銀券を日銀に持って行っても金や銀と交換してくれない紙幣ですよという意味です。
昔は日銀券を日銀に持って行けば一定のレートで金や銀と交換してくれました。
これを兌換紙幣といいます。
その代わり日銀券は法定通貨と言って法律によって「強制通用力」を持たされています。
強制通用力というのはその金額で最終決裁が可能で受け取り側は拒否する事ができません。
商品を買ったり債務を返済するのを日銀券や円で行うのを拒否する事は出来ないという事です。
話は戻りますが日銀券を日銀に持って行くと昔は金に変えてもらえました。
これは日銀にとっては民間から金を預かる代わりに日銀券を渡しますよという事になります。
つまり日銀にとって日銀券は負債で金は資産です。
これを貸借対照表(バランスシート)にすると以下のようになります。
日銀券を持ち込まれたら同じレートで資産である金を渡さなければいけないので日銀券は負債という事になります。
現在日銀券は不換紙幣となりました。
法律上日銀は日銀券を資産の裏付けなしにいくらでも発行する事が出来ますがそれをすると日銀券の信用がなくなり、円の価値が暴落するので行っていません。
では日銀は金や銀の代わりに何を渡しているのでしょうか?
それは国債やETF等の金融資産です。
バランスシートにすると以下のようになります
負債側の当座預金は民間の金融機関や政府が日銀に開いている日銀の口座にある預金の事です。
日銀には普通の個人は口座を開く事は出来ず、限られた金融機関や政府等の機関しか口座を持てません。
日銀が国債等をそれらの機関からの買い入れると当座預金口座にその分の円を振り込みます。
現在は金銀の代わりに国債等の金融資産を渡しているという事です。
日銀はアベノミクス以降異次元緩和と称しそれまでより残存期間の長い国債を高値で大量に買い入れました。
ETFも相当な金額を買い入れました。
このような中央銀行がリスクの高い金融資産を大量に買い入れる金融政策は世界の中央銀行はやっていません。
中央銀行がそのようなリスク資産を大量に保有するとそれらが値下がりした時、中央銀行の資産の反対側にある負債、日銀でいえば日銀券等の円の価値も大幅に下落するリスクを負うからです。
日銀が債務超過に陥る危険も高まってしまうのです。
例を出すと日銀が1万円で国債を買い、日銀券1万円を代わりに渡したとします。
その後国債の価格が8000円まで落ちたとします。
すると同じ額面で渡した日銀券の価値も8000円分になってしまうという具合です。
日銀は2020年2月時点で492兆円もの国債を保有し、ETFも29兆円も保有しています。
ここ数カ月の時点でその国債の平均利回りは0.22%付近になっています。
日銀の負債に当たる当座預金にも金利が付きますがこれは-0.1%から+0.1%となっています。
日銀の当座預金の金利を日銀が調節する事によって日銀は金融政策を行っていますが、例えば日銀がインフレを抑えようとしてこの当座預金金利を0.2%に上げたとします。
すると保有国債の利回りに近くなってしまい下手をすると当座預金金利の方が高くなるという事態も考えられるのです。
その状態を逆ザヤといい、日本円の価値が大幅に下落するリスクを孕んでいます。
また日銀の資産である国債の市場価格が下落した場合も反対側である負債の日銀券や円の資産価値が下落します。
2022年3月現在資源価格の高騰等により世界でインフレが発生しています。
そのためアメリカ国債の金利も上がっていますが、日本国債の金利も上昇しており10年債で0.23%付近まで上がってきています。
債券の金利が上がるという事は債券価格が下落するという事なので上記の通り日銀の保有資産価値が下落し、負債の円の価値も下落しているのです。
この場合日本の政策金利を引き上げて円の市場流通量を少なくして円の価値を上げ、円安を防ぐという方法もありますが、上記の通り日銀は大量に高値で国債を保有しているため逆ザヤのリスクがあり金利を上げにくい状況となっています。
日銀は色々な理由をつけて金融緩和を継続しようとしていますが、事実上金利を上げられないためだと思われます。
もしこのまま日銀が緩和を継続すれば対ドルで200円、300円というレートも有り得る事態となりその場合日本円の預貯金の価値が激減する可能性も無いとは言い切れません。
日本国債、円預貯金神話の崩壊です。
日銀がこのような円資産を高値で買い入れた理由はおそらく日本の財政状態にあると思われます。
毎年の予算を国債に頼り過ぎて低金利で国債を発行出来なくなっていたと思われます。
それを先延ばししたのが異次元緩和です。
先延ばしした分低金利の国債が積み上がり値下がりリスクは増大しています。
しかもそれを日銀券を発行している日銀が大量保有するという事態になっています。
先延ばしというのは例えるならダムに水を無理やり貯水しているような状況です。
毎年少しずつ水を放出しなければいけないのにずっと溜め込んでおり、いよいよ溢れだしそうになっています。
もしダムが決壊すれば激しい鉄砲水が起き、下流の市場経済に壊滅的な被害を与える可能性があります。
もし日銀が保有する資産が外貨や外国債券、株式であれば円安は防げたかもしれません。
何故なら円安になればなるほどそれらの資産価値が上昇するからです。
2015年1月に起きたスイスフランショックではスイス国立銀行が資産として外国の金融資産を保有していたためスイスフラン買いが起きました。
これは今の日本とは逆の現象です。
まず日本は毎年の予算を見直し放漫財政を止める必要があるでしょう。
そして日銀に今取り得る金融政策手段があるとすれば個人的には株式ETFの買い入れ停止、さらには売りオペレーション(市場売却)であると考えます。
この政策なら株価は下落しますがインフレ期待を抑える事が出来ます。
日銀、そして政府の対応が注目されます。
その対応次第では皆さんも資産防衛を行う必要があるかもしれません。